発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:診療所の理事報酬と職員のベースアップ

2024年の診療報酬改定は6月から施行されますが、以前にもお伝えしたようにこれまでは病院中心に行われていた診療報酬改定は踏襲されつつも、今回の改定項目では診療所経営に大きく影響のある項目も増えており、診療所経営者にとって情報収集と予測力の重要性がますます高まっているように思います。

 

とくに目を引くのが「賃上げに向けた評価の新設」です。 本改定では、入院施設をもたない診療所、および資格を持たない医療事務の職員についても対象になったことが大きな特徴です。
遡って財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会が、2023年11月20日に鈴木俊一財務大臣に手交した提言書である「令和6年度予算の編成等に関する建議」を読み返すと、次のように述べられています。

 

「診療所の経常利益率(8.8%)が全産業やサービス産業平均の経常利益率(3.1~3.4%)と同程度となるよう、5.5%程度引き下げるべきである。現場従事者の処遇改善に向けて、毎年生じる単価増・収入増を原資とすることを基本としつつ、診療所を経営する医療法人に積み上がった利益剰余金(1医療法人当たり 1.24 億円)の活用、強化される賃上げ税制の活用、その他賃上げ実績に応じた報酬上の加算措置を検討していくべきである。」

 

そして、2024年5月21日、財政制度等審議会が新たに取りまとめた「春の建議」のなかで、『改正医療法が令和5年(2023 年)8月に施行され、医療機関が特定されない形での「経営情報データベース」が導入されたが、特に「見える化」 のコアとも言うべき、職員の職種別の給与・人数については、任意提出項目とされている。医療機関の「経営情報データベース」については、匿名であること、国民への説明責任の観点を踏まえれば、職種別の給与・人数 の提出の義務化が必要である。』と述べています。

 

これが何を意味するのか?

 

財政制度等審議会の提言と2024年の診療報酬改定を踏まえ、さらに詳細なデータを取得・分析し、職員のベースアップを促すと同時に診療所の
理事報酬に対する何らかの制約など是正策が提示される可能性があるのかもしれません。

診療所の理事長にとって憂慮すべき事態ですが、新たな成長のチャンスでもあるのではないでしょうか。 職員の賃上げと経営効率の向上を両立させるための戦略を検討するなかで、ベースアップ評価料の導入により、職員の教育やトレーニング、業務プロセスの見直しをすることで組織としてのパフォーマンスアップを上げ、それによってさらに収益の向上が見込めます。

 

近い将来、診療所の理事報酬を含め、透明性の高い報酬体系を構築し、職員の待遇改善に努めることで、診療所全体の信頼性と競争力を高めることが求められるように思えます。

 

冒頭で述べたように今回の診療報酬改定は、診療所に少なからず影響のある項目が増大しています。 今後はできるだけ早い対応ができるように、積極的な情報収集と予測力の強化を通じて、変化の波を乗り越え、より良い医療提供体制を築いていきたいものです。