発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:自院の繁栄を継続できる院長の条件とは? 

ここ20年来、病院は医療から介護へのシフトや地域に適した機能分化への対応から病床数は減少を続け経営は過渡期を迎えています。逆に診療所数は増加の一途をたどっており、都内だけで50件を超える診療所が新規開業している月もあります。 人口密集地域であるとはいえ、このまま診療所が増え続けるといずれ供給過多となり、自院の経営に支障をきたすことは十分に考えられます。

このように医療提供を取り巻く環境が大きな変貌を遂げつつあるなか、オフィス・アイ・ビー・エスの代表であり開業コンサルタントの石黒貴一郎氏に「成功する新規開業のポイントと開業後に起こる経営課題」と題して、最近の開業事情、開業に向いている先生、開業後の経営課題などお聞きしてきたのですが、インタビュー後に、内容を反芻し「自院の繁栄を継続できる院長の条件」として「3つの力量」が必要とされるのではないかと思いまとめてみました。

1つ目は、「自己修正」する力量です。開業に向いている先生について質問したところ「患者さんの話をしっかり訊く」「リーダーシップがある」「気配りができる」などがあった一方、向いていない先生は「相手の気持ちを理解しようとしない」「優柔不断」「面倒くさがり」などがありました。 開業する先生が開業に向いている資質をすべて備えているわけではないと思います。しかし、開業したからには足りない部分を自分自身で修正していかなければ、自院の繁栄は見込めません。 そのためには「自己修正」できる力量が求められます。 たとえばスタッフとの関係が悪くなった時、相手に問題があると頑なになるのではなく、自分の行動や言動が「相手の気持ちを理解しようとしない」と見られていないかと、一度冷静になって顧みることです。100%相手に非があることはそうそうありません。 先生ご自身に少しでも非がある点があれば自ら修正できる力量です。人は誰でも、他人の考えを修正することは困難ですが、自分で自分を修正することは可能です。 自ら修正できる先生は、スタッフにもそれが伝わり、わだかまりの解決へとつながるのではないでしょうか。

2つ目は、「環境適応」する力量です。経営とは環境適応業と言えます。 自院が長く繁栄を続けるためには、周辺の環境変動を敏感に捉え、新しい環境に適応していく勇気が必要です。厚労省が考える病医院の将来像、自院の周辺地域の人口動態、競合医院の動向など常にアンテナを張り3年後、5年後、10年後の自院が置かれる立場を予測し、手を打っていく力量です。 環境適応がその後の企業存廃を決めた1つの例として、ともに写真フィルムのトップメーカーであったイーストマン・コダックと富士フィルムが挙げられます。1990年代にデジタルカメラの普及による危機感を感じていながら環境適応できなかったコダック社は倒産し、新しい環境に適応した富士フィルムは今でも素晴しい業績を継続しています。

医療業界でいえば病院経営も同じ状況に置かれています。 自院がやりたい医療提供から抜け出せなかった病院は経営が悪化しМ&Aの対象や廃院となる一方、地域住民が求める医療提供に移行できた病院は存続しています。

3つ目が、「生涯学習」する力量です。たとえば、インタビューの中で石黒氏も開業ドクターの多くが時間が経つにつれ、最新医療への関心が希薄になってくると言及していました。 医療機器は進化したものが次々と開発されています。 常に自院に関連のある機器は最新の情報を収集しておくこと、そして必要とあればすぐに導入できる体制を整えておくことは来院患者の要望に応えるためにも極めて重要です。 また、最近は病気にならないよう運動療法や食事、サプリなど健康にお金を使う人が増えてきました。先生ご自身の専門分野と結び付け自院の差別化が図りながら、保険診療以外にも多角的な収入源を確保できないか、常日頃から積極的に学習しておくことが重要です。

以上「自院の繁栄を継続できる院長の条件」として3つの力量についてまとめてみました。 病医院経営は、ドクターであり経営者である院長先生の考え方や決断で行く末がほぼ決まります。ドクターとして診療に集中することが一番重要ですが、同時に診療以外にも目を配り興味を持って取り組むことが求められる時代になってきたと言えるでしょう。