発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:競合病医院の出現で慌てないために準備しておくこと

どんな事業でも「需要と供給のバランス」のうえで成り立っており、病医院経営も同じであることはご存知の通りです。 需要が変わらない状況で診療圏に新しい診療所ができれば、条件によって変動があるとはいえ、供給が増えた分だけ自院への来院患者は確実に減少します。 このバランスが大きく崩れてしまった例として歯科医院が挙げられます。 1960年代半ば頃から始まった国民の急激な虫歯の増加による歯科医療の需要増大に対し歯科医師の供給不足が社会問題化したことで、1980年代半ばにかけて歯科大学、大学歯学部は急増しました。 しかしその後虫歯の数は減少し医療需要が低下したにもかかわらず歯科医師の供給は減少しなかったため、競合が激化しせっかく専門技術を持ちながら廃業せざるをえない歯科診療所が数多く見受けられるようになりました。

今後、病医院でも似たような現象が起こる可能性は否定できません。 実際に、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて医療需要は急速に増加していきますが、その後2040年にかけて高齢者も含めて本格的な人口減少が始まります。 しかも地方圏ではすでに過疎化が進んでおり医療需要が減少している地域も存在する一方で、都市圏では競合診療所が増加したことで患者減少に悩む診療所も耳にするようになりました。

このような競争に巻き込まれないためには、①需要側(患者)を囲い込む②専門特化し需要に対して供給の少ない地位を確保しておく③新しい価値を自院に付加する、の3つが考えられます。 このうち③について、先日インタビューした社会保険労務士の松田先生からお訊きした内容が参考になるかもしれません。 社会保険労務士としての業務内容は、労働関連法令や社会保障法令に基づく書類等の作成代行や企業の労務管理や社会保険に関する相談を受けることです。 ところがクライアントである診療所の先生からは、スタッフとのトラブル交渉や相談の矢面に立ってもらうよう依頼されることがあるようです。 しかしこれは社労士としての業務範囲外であることから、新会社を設立しそちらで業務を請け負うことにしたそうです。 それまで無償サービスとして請けていた業務を切り離すことで新しい有償サービスが生まれた事例です。 社労士としての本業との関連性も高いため相乗効果が生まれ、クライアントから喜ばれる新しい価値を提供することができます。

病医院でも同様のことは考えられないでしょうか。医療法人や医師としての業務内容は法律で厳格に定められていますが、周辺には新規事業として成り立つものがあるかもしれません。健診、自由診療、介護事業などは本来または付帯業務として認められている業務ではなく、そこから少し外側にあるもので自院と関連性があり、かつ需要があれば新しい価値を患者に提供できます。

患者が求めているものや自院がある診療圏を注意深く観察していれば、一見関係のない事柄の中にも事業として成り立つ思わぬヒントや発見があるものです。 今後は競合が現れることを前提として診療を行う必要があります。いずれそのようなことが起こることを想定し、初めはリスクを小さく抑えながら患者への新しい価値提供の実践を行ってみてはいかがでしょうか。