発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:病院の繁栄を支えるために不可欠なものとは?

ここ20年ほどの間に100を超える病院の理事長、事務長の話を聞く機会がありました。 その多くは、2003年の第4次医療法改正に伴う病床区分の選択を迫られる時期にお会いした200床以下の中小規模病院です。

 

病院が本格的に経営改革を求められたのはその第4次医療法改正以降ではないかと推測しています。診療だけでなく経営全般まで何でもできるオールラウンダーの理事長と多く面談しましたが、医療法改正や診療報酬改定が行われるごとに、地域に即した機能分化への移行やアウトカム評価など対応がより複雑化し、しだいに理事長1人で診療以外の経営全般まですべてを取り仕切ることは困難となってしまったと感じています。

 

そんな時代の変遷を目の当たりにし、理事長を経営面でサポートする優秀な事務長の存在が自院の運営を左右するようになってきたように思います。とくに中小規模病院において医師、看護師という専門職に事務方から経営面での要望を聞きいれてもらう環境を整えることには大きな障壁があることはよく耳にしていました。 そのため患者の在宅シフトが進む過程においても院外との「連携」がスムーズに行われず、経営不振に陥る病院が出現したのは1つの要因だと思われます。

 

そのような病院を取り巻く厳しい環境下で100床という自院の病床規模と地域に求められる医療提供を冷静に分析し、病床の転換を図り、そこで働く職員の生産性を向上させるなど、取り巻く医療環境に適応しこれからも存続できる病院も存在します。 そのヒントをお聞きしたく8月号に引き続き「中小規模病院に欠かせなくなった事務長の役割とは?」と題し医療法人寺沢病院の薗田事務局長にお話をうかがいました。

 

自院の経営に関連する幅広い情報の収集と活用法、医師、看護師など専門職とのコミュニケーション、事務職の育成など組織運営、経営者サイドとの折衝等、すぐに実践できる技術的な内容をお聞きすることができたのは非常に貴重なことでした。

さらにインタビューを進めるうちに、技術的なことだけでは対処できない突発的対応や例外的なトラブル処理まで、どんな状況下でも組織が上手く機能しているように思えました。

 

その点について理由を知りたく薗田氏にお聞きしたところ述べられのが「文化」という言葉でした。 寺沢病院の「文化」が病院で働く職員全員に浸透しマニュアルだけではない患者対応、他病院との良好な連携構築など組織の行動指針となっているのでした。

業務遂行のためのテクニックは必要ですが、組織全体を最適に機能させるには、自院の「文化」を創り上げて確立することが不可欠に思えてきます。しかし素晴らしい「文化」を取り入れ、そして自院に浸透させるには時間を要することも「ハーバードの日本人論」(佐藤 智恵 中公新書ラク)の書著に記されています。

 

日本人のオペレーションはなぜ真似できないのか~テスラ、GMがトヨタから学ぶべき現場文化~の章で、ハーバード大学経営大学教授 Willy C.Shihが、「文化」を取り入れることについて次のように述べています。

 

『15年前イーストマン・コダックの部長だった私はトヨタの生産方式を学ぶため経営陣を連れてケンタッキー州のジョージタウン工場を見学したことがあります。工場長が生産現場をくまなく見せてくれるので私は驚いて「本当に何でも見せてくれるのですね。これではアメリカの競合メーカーにも筒抜けではないですか」と聞くと彼はこう答えたのです。「競合が来ても全部見せますよ。見ただけでは真似できないから見せても大丈夫なんです。企業文化と考え方まで理解しなければこの生産方式は実現できませんから」』

 

つまり、その業務のやり方を真似その通りに実行したとしてもはその組織の根底にある「文化」を反映しているにすぎないのでしょう。  だからこそ患者との接し方や職員同士の連携など1つ1つ丹念に積み上げ「文化」として結実した時こそ、長期にわたる繁栄を築ける唯一の道であると確信できたインタビューでした。