発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:病院の倒産が増えている本当の原因は何か?

民間信用調査会社の東京商工リサーチによると、1~8月の病院・医院の倒産は32件で急増、すでに前年の27件を超えリーマン・ショックの影響を受けた2009年の倒産数59件に次ぐ多さになる可能性があるとのことです。 また「全日本病院協会」によると、昨年は全国で3割超の病院が赤字経営に陥ったとされ、経営難に陥った病医院が資金不足を補うため、診療報酬請求権を担保にいれたり、医療法人の経営権を譲渡してしまうこともあるようです。

確かに、診療報酬抑制や人口減少など病医院を取り巻く環境が厳しくなっていることは周知の通りですが、一方で黒字体質の病医院も少なからず存在しています。 はたして本当に環境の厳しさだけに原因があるのでしょうか?

以前ある病院の収益改善コンサルティングの現場に立ち会うことがありました。 その分析結果をまとめた報告書からは、新たな人員確保や設備投資など必要とせず患者受け入れ態勢の改善や周辺の病医院との連携強化など行うことで数千万円もの収益改善が見込めるという非常に希望の持てる内容でした。

しかしその後、病院の収益改善は遅々として進みませんでした。収益を出さなければ職員の給与を上げられず、設備投資もできず、患者へのサービス費用も出せず、経営はますます悪化します。報告書を参考に取り組むべき極めて重要な課題であるはずです。大きな改革をせずとも収益改善できると理解していた自分にとって、なぜすぐに改善内容を実行に移さないのか不思議に感じていました。

そんな中、これまで全国200件以上の病院コンサルティングに携わった株式会社サイプレス、安西氏への「今月のインタビュー」で興味深い話を聞くことができました。「どうすれば収益が改善するのか分析できたところで実際に病院の収益改善にはつながらない、その分析をもとに実行に移してもらうことが難しい」という安西氏の言葉でした。

病医院という組織の中で診療、手術の責任者は医師であるとしても、経営の責任者は誰なのかということです。つまり、大きな課題が目の前にあるにもかかわらず実行に移さないのは、一番の要因として経営に関する責任の所在が明確になっていないのではないかと推測しています。

「事業責任者のトップとして立ち上げから10年間指揮した新規事業は成功する」というある上場企業の社長の話が記憶に残っていますが、組織はトップで90%決まると言われます。経営改善を実行するにはさまざまな障壁を乗り越えなければならず、そのためには経営に関連するさまざまな実務を任せたとしても、やはりトップである理事長が進捗状況をチェックし、障壁となっている点があればどうすべきか判断し、方向性を示し、最終の責任は理事長がとるという強い意志を持つことで職員もついてくるのでしょう。

「打つ手は無限」という言葉があります。周辺環境は厳しい中でも経営改善できる点はまだ数多くあるはずです。 特にドクター業務をこなしながら経営業務もこなす理事長は目の回る忙しさのはずですが、それでも素早く経営判断できる仕組みを創り1つ1つ課題解決を進めていくことで自院の収益性を改善することは可能ではないでしょうか。