発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:病医院の親族外承継を成功に導く3つのポイント

経営者にとって最後の大仕事、それが「事業承継」と言われますが、承継者がまだ確定していない病医院の理事長にとっても事業承継は大きな仕事であり、また悩みの種でしょう。

 

日本医師会総合政策研究機構が2019年に発表した「医業承継の現状と課題」によれば、病院で68.4%、無床診療所では89.3%という後継者不在率の高さが公表されたことからも、承継問題の大きさが浮き彫りとなっています。

 

子供が承継するのが当たり前だった時代から、たとえ子供が医師になったとしても承継しない事例が多くなるなか、親族外への個人承継やМ&Aとなるケースが増加している傾向は今後続くと思われます。

 

М&Aと聞くと10年前であれば身売りや乗っ取りといったイメージが先行していましたが、いまでは、М&Aが後継者問題の有力な解決手法のひとつの選択肢として考えている経営者の方も増えてきているのではないでしょうか。

 

そこで、「今月のキーマンに訊く」では病院および関連施設の親族外承継で50件以上の成功事例をもつ株式会社fundbook社、横山氏に「親族外承継を成功に導くポイント」についてお話をうかがってきました。

 

インタビューでは、親族外承継を成功させるためのポイントとして

①タイミング、②目的の整理、③アドバイザー選びの3つ挙げていただきました。

 

病医院に限らず、日本企業の後継者問題はこれから5-10年でピークを迎えると予測されます。 つまり、需給バランスで考えると今はまさに売り手側が有利であり、譲渡先の選択肢が豊富で良い条件で交渉できる可能性が高いと言えるようです。そしてこのバランスはいずれ買い手側が有利となる時期がくることから、タイミングだけでМ&Aを考えるわけでなくとも、検討中であれば今からタイミングを見極めておくことは非常に重要なポイントになると思われます。

 

次に目的の整理ですが、地域患者のために自院を継続していってほしい、従業員の雇用は守り続けてほしい、新しい診療スタイルで発展してほしい、できるだけ価値ある値段で譲渡したいなど、目的はそれぞれです。 目的を今一度確認しておくことで本当にМ&Aが良いのか決断するための判断材料となります。

 

3つめが、アドバイザー選びです。М&Aを取り扱う事業会社から、士業、ブローカーまで直近10年で激増しています。

 

そのようななか、中小企業庁が8月にМ&A支援機関登録制度を公募しました。 今後М&Aについての法整備を進めていくと推測されますが、一口にМ&Aといっても、売り手と買い手を繋げる「仲介」、売り手側または買い手側だけにつく「FA(ファイナンシャルアドバイザー)」、買い手と売り手を登録してつなげる「マッチングサイト」などの形態があります。 また、契約についてもМ&Aの成立で報酬が発生する成功報酬型の業務請負契約やМ&Aの成立に関係なく業務に対して報酬が発生する業務委託契約もあります。

 

いずれにせよ病医院のМ&Aの場合、一般企業のМ&A経験、知識だけではトラブルになる可能性が高いことは間違いありません。 医療法、出資持分、病医院の特殊性、そしてそれらを包括したうえで経営者の意向を十二分に理解し、適確なアドバイスができる人物を探す必要があります。この点がМ&Aの一番難しいところかもしれません。

 

最後に、「持ち分なし」の落とし穴として横山氏から話をお聞きしたのが、子供への承継を前提に認定医療法人にした後、子供が承継を拒否したため親族外承継に舵を切らざるを得なくなり、譲渡金額が持ち分評価なしの退職金だけとなってしまう事例が散見される問題でした。

 

はじめにも申し上げたとおり、子供が医師だったとしても承継する可能性は低下しています。親心としては親族内承継を第一目標としても、同時に親族外承継も並行して検討しておくことが、その後の承継をスムーズに遂行する最大のポイントであると感じたインタビューでした。