今月の視点:病医院で増える労務トラブルの防止策と対応策
どんな組織おいても雇用する側と雇用される側には越えられない大きな壁があります。 雇用する側の経営者はいつも不安を抱えながら業務を行う一方で、雇用される側の職員が多く抱えているのは、不平と不満です。
また昨今は、社会的な背景から雇用される側の権利意識の高まりが強くなっています。人口減による人材不足もこの権利主張に拍車をかけていることは否めません。同時に、日本人の考え方、生き方が多様化し、仕事への取り組み方をみても、1つの価値観だけの見方では対応できなくなってきてきたように思います。
しかし採用難だからといってどんな人間でも雇用してしまうことは、潜在的なリスクを抱えてしまう要因となります。 短期で転職を繰り返している履歴書、面接での受け答えに違和感がある等々、また悪意をもって入職する人間がいるかもしれません。 面接だけではとても相手の真意は分かりえませんが、自院の採用基準やどんな職員を求めているのかは明確にしておく必要があるでしょう。 それによって、自院に合う人間が面接に来る可能性が高く、入職後の労務トラブルの防止策となります。
また普段から職員に目を配り、不平、不満を感じ取ってコミュニケーションをとることが、トラブル防止には一番です。そのため定期的なミーティング、個別面談などコミュニケーションに時間を割くことは必須です。職員からの不平、不満を聞く際には、感情的に職員と対立することを避け、なぜそのような発言をするのか冷静に振り返ることも大事です。
大きなトラブルや訴訟になる原因は、職員からの不平や不満を放置したり、感情的に対立してしまうことですが、それは普段からの会話不足、コミュニケーション不足からきていることがしばしばあります。
またよくある事例として、院長の目の届かないところで職員同士の不平、不満が蓄積され突然トラブルが表面化することです。 それを回避するには職員の間にはいり話を聞けるコンサルタントなど、第三者を立てることも有効です。
以前にインタビューしたタイプ別コミュニケーションを取り入れることも非常に効果的です。人間は家庭や職場など集団生活を送るうえで社会的な性格を形成します。4つのタイプに分別でき、その組み合わせやコミュニケーションの取り方によって、トラブル防止や良い関係の構築法を学べます。 ぜひ院長、職員の皆さん全員の社会的性格を分析し、お互いにどのタイプなのか把握しておくことをお薦めします。
それでも大きなトラブルとなる可能性はあります。今ではインターネットで簡単に情報を入手できる時代です。昔は専門家しか分からないことでも今ではネットで簡単に情報が手に入ります。労働基準監督署に通告するなど、相手を困らせるために何をすればいいかまですぐに検索できる時代です。訴訟になれば、経営者が矢面に立たなければならず、診療に悪影響をおよぼすことになります。
そのことも想定して、労務に関するレクチャーを専門の社労士や弁護士に依頼して労務契約関連書類の整備をしておくことです。たとえば法令に次ぐ効力を持つほど重要な就業規則でこれがなければ懲戒解雇することができません。したがって、就業規則は作成義務がないクリニックでも必須だと言えます。
コミュニケーションを欠かせない事でトラブル防止を図り、それでも起こりうるトラブルに対応するため労務関連の書類整備をしておくこと、それが結果として自院を守ることになると考えます。