発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:救急医療の実状からわかった、地域医療連携構築の難しさ

「救急隊が医療機関に4回以上受入れ照会をおこなった割合が大きく減少したんですよ。」総務省消防庁の救急搬送における「医療機関の受入れ状況等実態調査」をもとに作成されたデータを見ながら「救急医療の最新事情、地域で命を守るために誰が何をできるか?」と題してインタビューしたバーズ・ビュー株式会社の夏井代表が解説してくれました。これは奈良県の重症以上傷病者の搬送で、救急隊が医療機関に4回以上受入れ照会をおこなった割合が、2014年の全国最下位である10%超から2018年には全国平均の2.5%まで減少した例です。

救急患者の搬送困難事案、いわゆる「たらい回し」がことあるごとにニュース報道され、社会問題として国会で採り上げられたこともあります。奈良県では2009年の消防法改正をうけて救急搬送ルールの策定や見直しを行い、自治体、救急医療機関、救急隊など救急医療における地域連携を密にすることを行ってきたとのことです。 そこにバーズ・ビュー社のシステムを導入し、受け入れ可能な病院と患者の情報をiPadによる簡単操作で瞬時に共有できるシステムを活用してきた結果が、先ほどの受け入れ照会回数の減少や救急搬送時間の短縮など改善された数字として明確に現れていたのです。

これまで救急医療についてテレビドラマやニュースで採り上げられる以外はほとんど接することがなく、今回はじめて実状を詳しく知る事ができたのは、救急医療に関心を寄せるきっかけとなりました。 自分や家族になにか症状がでた時、その症状をスマートフォンのアプリでチェックするだけで必要な対応が表示され医療機関の検索機能も付加されている「全国版救急受診アプリ(Q助)」や、救急車を呼んだ方がいいか判断に迷うとき電話ですぐに相談できる救急安心センター(♯7119)は、勉強不足で私は2つともこれまで存在を知りませんでした。

実際、Q助アプリを使用してみると短時間で必要な対応がすぐに表示されます。不急の救急車利用が半数を占めると言われるなか、このようなことを知っているだけで、慌てずに行動できますし、何より救急隊は、ムダな出動を避けることができます。

そしてインタビューで一番考えさせられたのは、救急医療のための地域連携を構築することの難しさでした。 救急医療の現場では、先ほど述べた通り搬送の受け入れ困難事例や搬送時間の延長が大きな課題です。地域によっては、救急医療機関、救急隊それぞれは多大な努力をしているもの単独行動では限界があるようです。 そのためには奈良県の事例のように救急患者に接する組織が連携していくことが重要だと理解できました。

しかし、救急医療機関、救急隊など組織にはそれぞれの事情があり、なかなか相手の都合を優先させることはできません。 そのため救急患者の情報を共有するなどシステム化を図り機能させるには、各組織が自分の都合だけでなく相手の立場も考慮して最適解を見つけていく地道な作業が必要です。

連携していくには自分の立場を主張するだけでは前に進みません。おそらく成功させるキーポイントは、連携組織の「責任者の存在」ではないかと思われました。連携とは新しい組織や事業を立ち上げることと同じように極めて難しく責任者の尽力が求められるものです。 このことを裏付けるように数年前にある上場企業の代表取締役から直に聞いた言葉を想い出しました。 それは「新しい事業は、10年管理する責任者がいなければ立ち上がらない」という言葉です。 とくに救急医療の連携を成功させるには大きな自己犠牲を伴うと思われるため、やり遂げる強い意志をもった方が必要とされています。もしそのような意志をお持ちの方がいらっしゃれば、現場の「取りまとめ役」として夏井社長のノウハウを導入することで「医師、救急隊がもっと効率的に動けるよう救急医療現場のムダを省き、蓄積されたデータをもとに改善を図ることができるのではないか」と信じることができたインタビューでした。