発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:医療法人化のメリットを享受するには

これまで、開業医の先生から「医療法人化した方がよいのか」「法人化するための事業収入の目安はあるのか」など医療法人化についてこのような相談を受けたことがしばしばあります。

 

医療法人化によるメリットは大きく分けると以下の4つになります。

1.信用力の向上

2.事業拡大

3.事業承継が容易

4.節税効果

 

信用力の向上は、法人化することで、事業報告書の提出義務があるなど、金融機関や取引先からすれば決算書をもとに評価することができるので、信用力が向上し融資が受けやすくなります。また社会保険料の加入義務があることから人材の採用や確保がしやすくなる面もあります。

 

2つめの事業拡大については、分院展開や介護施設などの付帯業務の展開などが容易となります。 個人事業のままでは、1施設ごとに雇用する分院長に開設者兼管理者をお願いしなければならず実質的な管理ができません。一方、医療法人であれば開設者は理事長のままで管理者だけお願いすればよいので法人として管理ができます。

 

3つめの事業承継については、個人開設の診療所を承継する際、廃院届けを出し、新たに診療所開設手続きが必要になり手続きが面倒です。医療法人であれば理事長を交代するだけなので容易に承継することができます。

 

4つめの節税についてが、医療法人化するにあたり先生にとって非常に重要視する部分であると思います。節税効果としては以下5つ挙げられます。

 

1)給与所得控除

2)所得分散

3)法人税率の適用

4)退職金支給ができる

5)生命保険の損金算入

 

1)については、医療法人になれば役員報酬という給与での受け取りになるので給与所得控除が受けられます。 一例として、個人事業での事業所得3000万円とすると税額は約1500万円、給与所得とすれば税額約1330万円となり約170万円の節税となります。

 

2)所得分散については、個人事業では専従者給与として配偶者への支給だけだったのが、両親や子供などにも理事報酬を払うことができます。 ただし子供は年齢による制限がありますし、両親に報酬を支給する意図がない場合はあまり関係ないでしょう。

 

3)は医療法人化と個人事業の税金額を比較することになります。 個人事業の場合は、事業所得の税金+専従者給与の税金になります。 医療法人化すると理事長報酬の税金+理事報酬の税金+法人税となります。 法人税率の適用については、個人事業の場合の所得税の最大税率は45%、さらに住民税10%となりますが、法人の利益は法人税が最大約30%になるので合計税金額を抑えることができます。 したがって理事報酬を下げて医療法人に利益を残すほど、節税効果がありますが、個人としての手取り額は減りますし、医療法人の資金を個人で自由に使うことができません。

 

4)退職金の最大のメリットは、1/2課税です。 支給額の1/2は非課税となります。たとえば1億円の退職金であれば5000万円が課税対象から外れます。理事長としての勤務年数にもよりますが、20年も勤務していれば75%以上は手取りとして受け取ることができます。

 

5)生命保険は個人であれば最大12万円の控除しか受けられませんが、法人契約にすると

経費算入できる保険であれば算入部分は全額経費となります。ただし最近は経費算入率が高く、かつ貯蓄効果も高い保険は減少しています。 節税効果だけで加入するのではなく、事業保障、運用効果などもあわせてどれほどのメリットがあるのか明確にしておくことがポイントです。

 

以上簡単に取りまとめましたが、医療法人化の一番の節税メリットは、どれだけ医療法人の税率を活用して法人に資金留保できるかです。そしてその資金を最後に退職金として受け取ることがもっとも効率が良いと言えます。 したがって医療法人化して節税すればそのまま個人の手取り額が増えるということではありません。

 

医療法人化で合計税金額がいくら安くなるのか、医療法人にどれだけの資金を残すのか、シミュレーションして明確な数字を示しておくことです。 また生活に必要な資金がいくら必要なのか、そのために理事報酬をいくらすべきか、個人のライフプランを必ず作成し具体的な金額を算出して決断することが極めて重要です。