発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:医療機関におけるブランディングの手法と真の効果

「医療機関は患者から選ばれる時代へ」と言われるようになってから相応の年月が経過しました。 都市圏では人口密度が多い一方で、医院の開業件数は増加の一途をたどっています。 地域によっては需要と供給のバランスが崩れ受療率に対して競合医院の増加により患者の奪い合いが進行していることはご存知の通りです。

そこで注目されるのが自院のブランディングです。今月は、「なぜ、医療機関のブランディングがコスト削減と売上げ向上を実現するのか?」と題して株式会社DEPOC(デポック)代表取締役の安岡俊雅社長にお話を伺ってきました。

ブランディングは聞き慣れた言葉ですが、どのような意味でしょうか? ウェブサイトで調べてみると広告宣伝、差別化、企業価値の向上、マーケティングなど、実にさまざまな解釈を見て取ることができますが、安岡社長は著書で医療機関のブランディングとは「理念や経営方針などの情報を受け手が受けとりやすいように精査し、加工して伝えること」と定義しています。

つまり「自院の情報を整理し、わかりやすく開示すること」であると言い換えられますが、開示する情報には定量的なものと定性的なものに分類できます。定量的とは数値化できる物事であり、職員数、症例数また院長の学歴、医療機器数など数値化されているため文章化することはそれほど難しくありません。 一方で、定性的とは数値化することができない物事です。 院長はなぜ医師を目指したのか、なぜこの地で開業したのか、診療方針などは定性的と言えます。これらの項目は、院長が過去を振り返り頭の中から引き出し、それを分かりやすく表現しなければならず、とても骨の折れる作業です。 その非常に手間のかかる作業を株式会社DEPOC社では何度も院長と面談を重ね、情報を取り纏め病医院のホームページに分かりやすく掲載することでブランディングを構築する手法として事業を展開されています。

ブランディングを実践していくと、院内および院外に実に多くの効果を得ることができるようです。 ブランディングによってわかりやすく開示した診療情報などに共感した患者が来院します。患者のファン化を図り売上げ向上が実現できるのです。

また、開示した情報に心を動かされたスタッフが集い、事務職員はもとより医師、看護師の募集に紹介会社を通さずともウェブサイトを見て自ら応募してくる病医院もあるようです。 つまり職員募集のためのコスト削減に直結するのです。

病医院に看護師が直接応募してくることについては、私が過去に九州のとある病院へ訪問した際、実際に聞いたことがあります。 そこは市内から遠く離れた海沿いの町でとても便の良い地域とは言えませんでした。 看護師の確保にさぞかし苦労されているのではないかと思い質問したところ、意に反して事務長から出た言葉は、「当院のウェブサイトを見て応募してくる看護師がいて困っていない」とのことでした。 訪問後、その病院のウェブサイトを見て納得しました。 院内の様子や職員同士の笑顔のある雰囲気、病院の方針など詳細な情報を看護師長自らの写真とともに動画でメッセージを提供していたのでした。

定性的な情報は、人間が行動する動機となる感情に訴えかけることができると感じています。 それがブランディングの重要な要素であり、継続していくことで院内の雰囲気が良くなったり院外に良い評判が広がるなど好循環へと繫がっていくのでしょう。それが月日を経て自院のブランドが地域に根付いたと認識できる日が来るはずです。 その結果として、ブランドとも言うべき「自院独自の素晴らしい文化」が生まれることが、真の効果ではないかと気づかされた。