発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:クリニックのスタッフ採用・教育で必要な3つの視点

クリニックの運営において、スタッフの採用と教育に悩む院長は多いのではないでしょうか。今回は、私の経験をもとに、スタッフ採用と教育において特に重要な3つの視点についてお伝えします。

 

1つ目は「技術的なノウハウの吸収」です。

クリニックのスタッフ採用と教育において、書籍やセミナーからノウハウを積極的に吸収し、それを実践に生かすことが不可欠です。世代ごとに仕事に対する考え方も変化するため、最新の情報と知識を取り入れることで、間違った対応を避ける可能性が高まります。

 

例えば、「スタッフ採用から定着のコツ」と題して、合同会社クレールの松本敦子氏にご登壇いただきました。このセミナーでは、松本氏が具体的な事例として、採用面接前のメールや電話のやりとりから候補者の性格や適性を読み取る方法、若手資格者と年長スタッフの組み合わせが良い効果を生むことなど、現場ですぐに試行できるノウハウをお話いただきました。

 

このように、セミナーや書籍を通じて得られる現場の知識を、自院に反映させてみることが重要です。具体的な事例を多く知っておくことで、状況に応じた柔軟な対応が可能となり、スタッフの採用から定着までのプロセスをスムーズに進めることができます。

 

2つ目は「院長のこだわりの開示」です。

クリニックの院長が自身の診療方針やクリニックの雰囲気を外部に開示することは、応募者にとって非常に重要です。院長のビジョンやクリニックの特長を事前に知ることで、応募者はクリニックとの適合性を判断しやすくなります。

 

具体的には、クリニックのホームページやSNSを通じて、院内の雰囲気や働いているスタッフの様子を紹介することが有効です。また、院長自身がクリニックを開業した理由やその場所を選んだ背景、求める職員像などを自らの言葉で語ることで、応募者に対してクリニックの理念や価値観を明確に伝えることができます。あるクリニックの院長が「なぜ医師になったのか」「なぜこの地に開業したのか」を語るホームページを10年以上前に拝見したことがありますが、今でも鮮明に記憶に残っています。

 

このような情報開示は、応募者に対してクリニックの魅力をアピールするだけでなく、ミスマッチを防ぎ、適切な人材の採用につながります。スタッフが同じ方向を目指して働ける環境を整えることは極めて重要です。

 

3つ目は「スタッフの定期的なベースアップ」です。

令和6年の診療報酬改定で新たにベースアップ評価料が設けられましたが、現時点でこれを採用しているクリニックは多くありません。しかし、長期的なスタッフの満足度と定着率を考えると、ベースアップの導入は避けられない課題です。

 

私事ですが、長期にわたって雇用しているアシスタントから初めてベースアップの要望がありました。これまで病医院のベースアップの話題は取り上げていたものの、自社のことについては他人事だったと気づかされ、初めてこの問題を真剣に捉えることができました。

 

30年以上続いたデフレの影響で、ベースアップの概念は薄れていましたが、現在はインフレの時代へと移行しました。私が社会人になったばかりの1990年代は、労働組合が毎年のようにベースアップ交渉を行っていました。今、そのような時代に回帰してきたことを認識する必要があります。

 

スタッフの採用・教育にすぐに結果のでる特効薬はありません。しかし、今回取り上げた3つの視点を実行に移し常に改善をしていくことで、成長するクリニックになると私は考えています。