発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:「賃上げに向けた評価の新設」が診療所に及ぼす影響

これまでの診療報酬改定は、病院向けに影響のある項目が非常に多い印象でしたが、2024年度の改定項目では診療所経営に大きく影響のある項目が増えたように感じています。

 

とくに今回の改定で診療所が注目すべきポイントが以下の通り3つ挙げられます。

 

①賃上げに向けた評価の新設

②生活習慣病に係る医学管理料の見直し

③地域連携

 

前月号の「キーマンに訊く」の予告でお伝えしたように4月号では改定に関するこの3つのポイントのなかで「賃上げに向けた評価の新設」が今後の診療所経営にどのような影響を与えるのか、医療経営コンサルタントの佐藤勝浩氏に解説をお願いしました。

 

これまで病院かつ資格者である看護師などの賃上げについては、評価対象でしたが、今改定では、入院施設をもたない診療所、および資格を持たない医療事務の職員についても対象になったことが特徴です。

 

給与のベースアップの計算については、厚生労働省のサイトに「ベースアップ評価料計算支援ツール」として設置されていますが、定期的にベースアップを実施し新設点数を算定する必要のない診療所と、これまでベースアップを行っておらず新設点数を算定する診療所に分かれた場合、2つ懸念が想定されます。

 

1つは、算定した場合、職員のベースアップ評価料が診療明細書に記載されることになれば、その一部を患者負担することが分かります。 患者が明細書を確認した時にどう感じるのか、ということです。

 

これまで全国の診療所が一律点数アップになった際に行ってきた院内掲示だけでは不十分かもしれません。 算定する診療所は算定しない診療所と比較して請求点数が高い分、独自の付加価値サービスを提供しなければ納得しない、受診を控える、他院へ移る等の懸念がでてきます。

 

もう1つは、職員のマインドです。 これまで診療所で職員の給与を決める際は、院長の一存で決められる事が多いと思いますが、給与規定に基づいたものではないベースアップでは、職員離れが起こるのではないかということです。

 

現時点では単なる推測ではありますが、日本のデフレが終焉し、今後インフレが続くのであれば、他業界と同様に医療業界においても継続的なベースアップをしなければ「職員が集まらない」ということが起こりえます。

 

診療所側は、職員のベースアップに耐えうるだけの経費を捻出すること、および患者に対して自院なりの独自サービスを提供すること、について今のうちに考えておく必要があると思われます。

 

診療報酬改定の実施は6月になりましたので、このベースアップ評価が診療所経営にどのような影響を与えるか現時点ではまだ表面化していませんが、上記したような現象が起こることも想定し、今のうちに対応策を検討することが必要だと感じたしだいです。