今月の視点:コロナ禍を契機とした専門診療から周辺診療への展開
2020年初めから蔓延した新型コロナウイルスによる影響は、これまで経済環境に比較的左右されないと言われた医療業界にも大きな傷跡を残しました。
先日あるクリニックの院長と話をしたとき、コロナ禍の真最中に周辺では有名なクリニックがいくつか閉院したとのことで、自分も閉院せざるをえないのではないかと一時心配していたそうです。
新型コロナウイルスによって、とくに耳鼻咽喉科と小児科は大きな打撃を受けたというデータも出ています。 また内科でも発熱外来に対応しているクリニックは診療報酬が大きく伸びた一方で、対応していないクリニックでは診療報酬が大幅に減少している事例もありました。今では患者が少しずつ戻ってきていますが、コロナ前まで回復するかどうかは不透明です。
そんななか最近開業されているクリニックでは、開業地域で新しく患者需要を掘り起こそうと、標榜している診療科とは一見関連のない診療も行っているケースが増えてきたように感じています。 その理由として不測の事態が起きても収益悪化に対処できるように診療内容を広げておくという意図がうかがえます。
この診療内容を広げる1つの例として、今月の「キーマンに訊く」でゾーン株式会社の岡嶋様にお話しいただいた「どの診療科・中小規模病院でも始められる睡眠時無呼吸診療(SAS)取り組みのポイント」は参考になるかと思います。
岡嶋氏の説明によると、心臓を原因とする突然死数は2021年度が80,000人、1日当たりで計算すると219名が亡くなっていること、2021年度の日本人の死因推移からは心疾患、脳血管疾患を合わせると死因第1位の悪性新生物に匹敵するとのことです。 また新幹線の運転士の居眠り運転や夜行バスの事故などがSASに起因しているのではないかとの新聞記事の説明もありました。
2019年の報告書では国内に900万人以上のSASの潜在患者がおり市場規模は約1兆円と言われている一方で、CPAPの患者数は約65万人、約1000億円規模に留まっているとのことです。とても睡眠専門クリニックだけでカバーできる患者数ではありません。
CPAPは耳鼻咽喉科の専門領域になるかと思いますが、どの診療科でも来院患者のなかに相当数のSASの潜在患者がいると推測されます。
実際に耳鼻咽喉科ばかりでなく精神科、糖尿病内科、循環器内科などSASに関連性があると言われている診療科でもこの会社のサービスを導入し始めているとのことで、自院の診療科にとらわれない新規患者の取り込みが進んでいるようです。
今回は一例としてSASの導入支援の会社を取り上げましたが、診療点数に直結するサービス提供を行う企業が増えてきています。 一から院長ご自身で立ち上げるよりも、効率を考えこのような企業を活用していち早く新しい診療にも取り組める体制をつくることは、今後も予測できないリスクを回避するために一考されてもよいのではないかと感じたしだいです。