発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:病院の親族内承継と相続が「争続」になる原因とその対策

30代からスタートした医療業界との関わりも早いもので20年を超えました。1000人以上の先生とお会いすることができ、実に様々な話を聞く経験ができたことはとても幸運でした。

 

机上での勉強も大切ですが、現場で先生と直接面談することでその時々の課題をどのように対処されているのか、一般企業との違い、経営者としての振る舞いなど数多くのことを学ぶことができました。

 

その理事長、院長先生と面談するなかで、少なからず話題に上ったのが事業承継、相続問題についてです。 配偶者、子供との確執、親族内での争いごと、先代の理事長の相続時の苦悩など話をうかがう機会がたびたびありました。

 

子供同士で裁判をしている話や絶縁状態になっている話を聞いても、当初は、親族間でなぜそこまで揉めるのか?よく理解できませんでした。

 

しかし次第にわかってきたことは、揉めごとの一番の原因は「財産分与の不平等感」ということでした。とくに経過措置型医療法人の病院は長期にわたって蓄積された持分評価の取り扱いの難しさです。 持分を子供たちに平等に分けることは払戻請求権の行使など後々のトラブルの火種となります。 したがって持分は後継者に集中させることがセオリーですが、そうすると兄弟間での財産の偏りが大きくなりがちです。

 

だからといって認定医療法人など持分なしに移行した後に「親族内承継を断念した」事例なども聞くと拙速に舵を切るわけにもいきません。

 

そこで今回は、当社と連携し現場に同行いただいているキーストーンコンサルティング株式会社廣谷信幸代表に、相続に焦点をあて、~経過措置型医療法人の親族内承継問題~ 「相続」が「争続」になる原因の整理とその対策」と題し、原因と対策について短時間でコンパクトにまとめていただきました。

 

原因のポイントとして挙げていたのが「遺留分」の問題です。 遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人ついて最低限保障されている権利のことです。遺言の内容にかかわらず、配偶者と子の場合、法定相続分の1/2は遺留分によって相続できることになっています。

 

その遺留分に関して2019年に「遺留分侵害額の請求」の民法改正があり、預金、株式、不動産に関係なく均等に請求した人へ移転できていたものが、共有名義で持つことによるトラブルが絶えないことから、遺留分の精算は金銭の支払を請求することができるとされました。

 

これにより、持分を相続した後継者はリスク回避のために、代償分割を活用し他の兄弟に対して遺留分の金銭準備をしておかなければなりません。代償分割とは、

現物分割が困難な場合、遺産の分割に当たって共同相続人などのうちの1人又は数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担する方法です。

 

しかし一般的に持分評価に対して圧倒的に現金が足りません。その解決策として挙げられたのが、相続人全員で遺産分割について話し合う遺産分割協議の対象外となる現金を後継者が受け取り、他の兄弟に支払う方法です。その遺産分割協議の対象から外すことができるのが、死亡退職金生命保険とのことです。 どちらも受取人を指定することで受取人の固有財産となり遺産分割協議の対象外と説明されています。

 

インタビュー後の廣谷氏との会話で非常に印象だったのが、「相続人はみな現金がほしいのです」という言葉でした。 相続のさまざまな場面を目の当たりにしてきた方しかわからない「相続人の本音」を聴くことができたような気がします。