発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:病院の生産性が低下する根本的な原因

令和3年度実施の「第23回医療経済実態調査の報告」によると一般病院の1施設あたりの損益は、国公立、公的、医療法人など軒並み黒字となっています。 しかし収支の内訳をみると、その他の医業・介護収益として計上されている新型コロナウイルス感染症関連の補助金の収入によって総損益額が黒字となっていることがわかります。 医業・介護収益から医業費用を差し引いた損益は国公立、公的病院はかつてないほどの赤字、医療法人も若干の黒字に留まっています。

 

実際の数字をみてみると、国立病院では医業・介護収益から費用を引いた損益金額が▲468百万円から補助金により+429百万円の黒字、医療法人は+12百万円が、補助金を含めると黒字が+52百万円まで伸びています。

 

コロナ感染症患者数は増減を繰り返しながらも収束状況はいまだ不透明で、病床逼迫のニュースは連日報道されていますし、今回の患者数が減少したとしても第8波が押し寄せてくることも予想されています。 2類から5類へ分類変更しなければ再び病床不足となり国としては補助金によって引き続き病院を支えていくことになります。

 

しかし、先行きが不透明だとしても新型コロナウイルス感染はいずれ収束します。5類への分類変更となれば病床確保リスクも軽減され、いずれ補助金減額、支給停止となります。 すると現時点でコロナ融資の潤沢なキャッシュフローを確保できていても経営が黒字体質となっていなければ、元金返済がはじまると急速に資金が流出していきます。

 

そこでコロナ後を見据え、資金的な余裕がある今のうちに経営体質を見直しておくヒントがあればと思い、今月の「キーマンに訊く」では、現場経験から見えた「病院が経営不振に陥る原因」とは?と題して鎌田代表にお話しいただきました。

 

経営不振に陥る原因として、経営陣の慢心、ガバナンスの機能不全、人材不足、過剰な設備投資を挙げられていますが、そのなかで「専門家集団でコンセンサスが取りづらい」という病院の特徴についての説明がありました。どの病院でも少なからず抱えている課題かと思われます。

 

病院は医師、看護師、薬剤師、理学療法士、社会福祉士など専門職集団といっても過言ではありませんが、職種ごとの立場から主張してしまいがちで、しかも強い立場の職種の主張が通ってしまうことはよくあることです。

 

しかしお互いが自分の都合ばかり押し通せば、主張の通った側はそれで仕事が完結しても他の部署にしわ寄せがきます。そしてしわ寄せが来た側の不満が蓄積されれば組織全体へ悪影響を生み生産性は必然的に低下し、組織崩壊へとつながるリスクをはらみます。

 

回避するためには職種を超えてもっと高い視点でみたマネジメント力が求められます。医師と看護師がいれば何とかなる時代から、周辺の医療機関との連携が不可欠となってきている今、事務職も含めた組織全体のまとまりが必要です。 では誰がそれをとりまとめるのかといえば、事務長のフォローを得ながら理事長が経営者としてリーダシップを発揮するほかありません。

 

職種間でお互いの主張をすり合わせ、患者と同時に自院全体にとって最適な手段を見つけ続けることが機能的な組織運営へとつながるはずで、それが生産性向上に貢献します。 そのための「総合的な判断ができるのはトップである理事長しかいない」そのように強く感じた内容でした。