今月の視点:実例から解決のヒントが見つかる「病院の親族内承継、М&A」
2003年に病院理事長と初めて面談するようになってから早いもので20年が経とうとしています。 当時バリバリ仕事に邁進されていたその先生方も事業承継の時期を迎えご相談を受けることが増えました。
そのなかで理事長のご希望のとおりご子息に無事バトンタッチできた病院もありますが、承継者が決まらないまま突然、病に倒れたり、お亡くなりになったりして、理事長からお聞きしていた意向に沿わない承継も目の当たりにするようになりました。
事業承継は、理事長ご自身の年齢、承継候補者の意向、親族の思惑、医療制度の行く末、地域医療の将来性等々、さまざまな要素が複雑に絡み合い、二元論的な決断ができるものではないことは間違いありません。
それだけに包括的な視点で最適解を見つけていくには相当なエネルギーが必要とされますので、日々の診療や業務に追われていれば後回しにならざるをえないでしょう。
ご子息など親族内に承継候補者がいれば「いずれは」と期待してしまいますが、ご子息にも自分が歩んでいきたい人生があり、ご自身の将来像、そして家族の事情や意向を鑑みると、そう簡単に決断できるものではないことは容易に想像できます。
とくに理事長とご子息でコミュニケーションが取れていない、つまりひざを突き合わせて病院の将来について真剣な話し合いがもたれていない場合は、親族内承継がスムーズにはいかない場面はよくみられる光景です。
このように親族内に承継候補者がいても、実際に承継する意志が確認されないまま時が過ぎ、理事長が病に倒れ初めて承継の話をしたが断わられ、やむなくM&Aや廃院など次のステップを踏むことは少なくありません。
また親族内に承継者がいない場合、長年勤務してもらっている院長に意を決して打診したが拒否され売却や廃院するケース、そして親族外承継しかないが、とりあえず元気なうちはできるだけ働いてとがんばっているうちに突然倒れるなど、能動的な承継よりいよいよやむを得ない状況となって承継となることが多いと思われます。これでは、親族が慌て正しい決断が下せず、急逝されたときなどは、残された親族の「相続」が「争族」にもつながる可能性も高まります。
そこで株式会社fundbook社の横山氏に、2021年11月号に引き続きご登壇いただいき、豊富な事業承継案件に携わった経験のなかから、病院の親族内外承継の事例をピックアップし、次の6つの事例についてお聞きしました。
・家族会議のサポートで親族内承継を実現
・投資ファンドを活用した院内承継
・親族外承継で後継者不在問題を解決
・М&Aで病院の建て替えを実現
・大手病院グループに入り採用力を強化
・赤字施設を事業譲渡して経営資源を集中
承継事例を聞くと、実にさまざまな手段を活用してこれまでの発想になかった承継問題の解決を図っていることがよくわかります。
病院は多くの従業員とその家族の生活を支えている場所であり、また地域医療を守る大切な役割も果たしています。 あくまで親族内承継が第一希望だとしても、自院を永続的に存続させるためには、院内承継、М&Aへの移行も同時並行で情報収集しておくことが、ある程度余裕をもって承継対策を打つ際のヒントになると思える非常に濃い内容でした。