今月の視点:医療法人のガバナンスについて
医療業界でよく耳にするようになったガバナンス(Governance)。
ガバナンス(governance)とは直訳すると統治、支配、管理という意味になります。2000年前後に日本の大企業の不祥事が頻発したことから、企業経営における管理体制が注目されるようになりコーポレート・ガバナンス(企業統治)という言葉が使われるようになりました。
金融庁ホームページでは、コーポレート・ガバナンスとは「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。」となっています。
会社は「経営者のものではなく、所有者である株主のもの」として社外取締役などを通して経営者を監視し、所有者である株主に対して最大限の利益の還元を目的としています。しかし医療法人においては一般的に持分の所有者と経営者は分離していませんので経営者を監視するためのガバナンスの必要性はありません。
したがって医療法人におけるガバナンスの目的は、患者、従業員、地域社会と考えることができ、監視する観点からみると、コンプライアンスとリスクマネジメントに集約されると思われます。
コンプライアンスとは、ビジネス上では企業活動における「法令遵守」を意味します。 また遵守するのは法令だけではなく、社内規範、社会規範、企業倫理なども含まれています。過重労働、パワハラ、セクハラなどの労働問題、不正経理、情報漏洩などを管理していくことを指します。
リスクマネジメントとは、想定される経営リスクを事前に把握するための管理手法です。プロセスが適切に構築・運用されることによってリスクが発生した際の損失を最小限に抑えることが目的です。主に院内感染や医療過誤などの医療安全にかかわるリスク、継続的に医療を提供できる体制等、経営にかかわるリスクを指します。
その「医療法人のガバナンスについて」、これまで数々の病院再生案件に携わってきた合同会社ユーパスの鎌田勇樹代表に今月の「キーマンに訊く」でお話しいただきました。
第三者として医療法人の立て直しのためにまずチェックする点は医療法人のガバナンスがどれほど保たれているかであり、医療法人の組織、医療法人の形態、そして勘違いしやすい「社員」「議決権」「社員総会と理事会の違い」「出資持分」についてそれぞれ説明していただきました。
また現場で実際に起こった「理事長解任動議」や「社員の除名」など困難な状況におかれ、ガバナンスの観点からどのように回避してきたのか実例もお聞きすることができました。
病院は数十年も前に開業したところが多く、開設当初からの経緯を詳しく把握されないまま運営されている場合があります。 医療法人の「社員」は誰なのか、出資者の名簿と持分比率など、今一度正確に把握することが極めて重要であることを再認識でき、病院再生のみならず、事業承継や相続においても必ず役に立つ内容だと感じたインタビューでした。