発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:医療法人にまつわるトラブルとその対策

「これも勉強だと思ってあきらめた」

 

私が20年来お付き合いのある臨床検査会社に勤務されている方が先日、親しいクリニックの先生に言われた言葉だそうです。 そのクリニックは建替えに伴う移転の届出が必要だと後から知って断念したとのことです。

 

このように医療法人にまつわるトラブルは後を絶ちませんが、あまり表沙汰になることはありません。 しかし他にも医療法人の乗っ取り、必要のない家族情報の開示、事務長による法人のお金の使い込みなど実にさまざまなトラブルが発生しています。

 

その原因として挙げられるのが、医療法人の増加数に対して医療法人の仕組みや必要な手続きについて正しい知識と経験を兼ね備えた事務所数がまだまだ少ないのではないかということです。

 

厚生労働省の医療法人数の年次推移をみてみますと、全国の一人医師医療法人の数は昭和61年度にスタートしてから増加を続けており、令和4年では47,295件となっています。

 

医療法人に経験豊富な事務所数が増えない理由として挙げられるのが、株式会社とは手続きが違うこと、および行政手続きの煩雑さです。

 

医療法人設立では準備する書類が多く、届出先も都道府県、保健所、厚生局など複数にまたがります。 また設立後も定款や役員変更届、事業報告書の提出、移転、М&Aなど医療法人に関連する手続きなど特殊である点です。

 

院長先生からすれば、顧問税理士に依頼すればよいのでは?と思われがちです。 もちろん、医療を専門とする税理士事務所であれば自ら手続きができることもある一方で、税理士は税務申告や税務相談など、税務関連が本来の仕事です。行政手続きは専門外であると考えている方もいるのが現状で、本来業務でありかつ医療専門としている行政書士へ税理士事務所から手続き依頼することも多々あります。

 

そこでトラブル発生事例とその対策について、医療法人の行政手続きを15年専門におこなってきた大岡山行政書士事務所の代表である中村弥生様に「理事長に知ってほしい医療法人の怖い話」と題してインタビューをお願いしました。 そのなかでトラブル防止として挙げていただいたのが以下の3点です。

 

1つ目は「理事長印は事務長などに預けず理事長が管理すること」です。理事長印があれば社員変更、各種契約など何でもできてしまいトラブルの元です。全幅の信頼をおいた方がいたとしても印鑑は理事長が管理しておくべきでしょう。

 

2つめは「医療に精通している税理士事務所を選ぶこと」です。 できるだけ安くしたいという理由などで医療法人の知識がない事務所を選択してしまうと、冒頭にお伝えした、移転ができなくなったなど取り返しのつかないトラブルに巻き込まれる恐れがあります。 大きな事務所だから安心ではなく、あくまで医療に詳しい事務所を選ぶことで、医療法人を正しく管理し必要に応じて相談に乗ってくれるそうです。

 

3つめは「登記や事業報告に注意する」ことです。医療法人は毎年、都道府県または政令指定都市に法人の事業報告書の提出義務がありますが、その内容はだれでも閲覧することができます。そこに理事である家族の名前が掲載されていると、不必要な個人情報を開示していることになります。

 

もし医療法人の手続きで顧問に不安があるようでしたら、事務所の変更を検討してみることが大きなトラブル防止になると感じたインタビューでした。