今月の視点:医師の働き方改革は、自院の生産性向上の取り組みを考える好機
2018年に成立した「働き方改革関連法」によって、大企業から順次対応してきた働き方改革は、2024年4月からいよいよ医師の働き方改革にも新しいルールがスタートします。
AIP経営労務合同会社の大澤範恭先生が10月21日に開催した「経営戦略としての医師の働き方改革」と題したセミナーでは、医師の労働時間を短くし、安全な医療を提供するだけでなく、病院の生産性・収益力を高め、患者サービスの向上を実現できることを4つのステップでお伝えしています。
影響の大きい大病院では、制度の仕組みの理解と必要な手続きに向けて着々と準備を進められていることと思いますが、セミナー収録動画は医療機関名とメールアドレスを登録すれば視聴可能ですのでご興味ある病院様はぜひご覧ください。(https://iryokeiei.co.jp/)
一方、中小規模病院では、時間外労働規制に該当する声はほとんど聞かれず、喫緊の課題ではないかもしれません。 しかし、働き方改革の本質的な目的が、人手不足への抜本的な対応策としての「生産性向上」と読み取れば、医療機関の大小にかかわらず、自院の生産性向上のため具体的な行動として取り組むべき好機と考えることができます。
病院の組織構造において生産性向上を図るためには、資格によって縦割りになっている医師、看護師などコメディカル、そして事務方を含め、それぞれの問題点を明確にし、総合的に対応することが求められます。
そのために各部署のスタッフの意見を積極的に聞き、各分野の専門性を尊重しながら、継続的に取り組んでいける環境を構築することが必要で、経営者側の強いリーダーシップとマネジメントが求められます。
生産性向上にはデジタル技術の活用が不可欠ですが、DX(デジタル技術を活用して生活やビジネスモデルの変革を行う)やICT(人インターネットをつなぎ情報のやり取りを行う技術)などの取り組みというよりも、まずは、連絡をFAXからメール、FAX送受信をPCやスマホで行う、打ち合わせを対面だけでなくオンラインも導入するなど、既存の業務プロセスの生産性向上を図るIT化や自動精算機の導入などでムリ・ムダを排除していくだけでも大きな効果が見込めます。
このような身近な改善から実行することで、医師の労働時間短縮、医療安全の提供、そして自院の収益力を高めることができ、医療提供者にとっても、患者にとっても、そして自院の収益にとっても効果を実現することが可能です。
下記に「医療機関における生産性向上への取組に関する実態調査報告書」から6つの業務改善手法を抜粋しました。 まずはこれを参考に各部署の改善項目を抽出してみるのも具体的行動のきっかけになると思います。
改善手法
説明
標準化
作業手順の標準化、使用物品の共通化などによって、品質の均一化を図る
(例)褥瘡の発生を低減させるという課題において、褥瘡に発生するまでのプロセスを、褥瘡予防パスにより図化し、褥瘡発生の危険性を定量的に把握することとした。
集約化
分散処理されている類似性の高い業務を一元的に処理することにより、処理能力を向上を図る
(例)配薬業務の効率をあげるという課題において、配薬カートに薬を分配する薬剤師と、実際に配薬する看護師の作業内容に無駄がないかを対比し、重複していた作業を省略するために共同作業を実施することとした。
重点化・簡素化
均等に作業負荷をかけていたものについて、優先順位を付与し、重点管理、管理の簡素化を行うものを切り分け、作業負荷を軽減する
(例)スタッフステーションの準備室が狭いという課題において、必要な物品と不必要な物品を明確にするため、不必要なものをたな卸しした上で、準備室から撤去した。
並列化・分散化
業務を並列・分散処理し、待ち時間をなくす事によってスピードアップを図る
(例)医療費の未払いを低減させるという課題において、未払いが懸念される患者の早期発見・早期対応を実施するため、相談窓口の設置、ソーシャルワーカーの配置など、相談しやすい環境を幅広く整えた。
導線最適化
ヒト・モノの移動経路の最短化(スピードアップ)を図る
(例)CT検査の処理スピードをあげるという課題において、CT技術者と患者搬送担当者が通る動線を見直した結果、改善の余地が見つかったため、最適化を図った。
作業廃止
業務をその必要性から見直し、不要なもの、代替可能なものに関しては、その業務を廃止することで、作業負荷を軽減する
(例)在庫管理において、従来の中央倉庫室に一度ストックする段階を省いて、そのまま各病棟に運ぶよう改めた。
経済産業省 平成19年度ビジネス性実証支援事業
「医療機関における生産性向上への取組に関する実態調査報告書」
アビームコンサルティング株式会社