発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:出資持分問題などの相続対策に活用できる「家族信託」とは

厚労省の病医院開設者の年齢構成を調べてみると、病院の開設者または法人の代表者5,183人のうち70歳以上31%、診療所は71,709人のうち70歳以上が21%も占めています。 その一方、日医総研のワーキングペーパー「医業承継の現状と課題」のデータでは病院68.4%、診療所86.1%が後継者不在となっており、事業承継が喫緊の課題となっている病医院は増加していると推測されます。

 

その事業承継問題と同時に理事長の個人資産の相続についてのトラブルも多くなっています。まったく対策されないまま理事長が突然、病に倒れお亡くなりになる事例も多く親族間での「争続」に発展することが少なくありません。

 

その際、遺言書は1つの相続対策となりますが、これはご本人が亡くなってから効力があるものです。認知症などで判断能力が失われた期間があれば、その間、銀行預金引き出し停止や贈与、不動産売買など法的契約を交わすことが原則できず財産は実質凍結せざるをえないため、相続対策の新たな課題が浮き彫りとなっています。

 

そこで2021年1月号でもご登壇いただいた家族信託コンサルタントである横手彰太氏に~なぜ「遺言」だけでは不完全なのか~『「後見制度」の落とし穴と急速に活用され始めた「信託」の活用法』と題し、家族信託について病医院の経営者のかた向けにあらためてお話していただきました。

 

家族信託とは、判断能力のあるうちに親を「委託者」「受益者」、子を「受託者」とし、所有権を「財産から利益を受ける権利」と「財産を管理運用処分できる権利」とに分けて、後者だけを子どもに渡すことができる契約です。

「財産から利益を受ける権利」は受益者である親のままなので契約時に贈与税はかからず、また所有者である親が認知症などによって判断能力が失われても、受託者である子どもが信託された財産の管理運用処分ができます。

 

冒頭で申し上げた通り、病医院は高い後継者不在率となっていますが、現場でよく見受けられるのが子供に承継してほしいが結論がでないまま、時間だけが経過しそのうち理事長が病に倒れ判断能力を喪失し何も手が打てないままになってしまうことです。 とくに持ち分評価の高い病院や地方の大型クリニックでは持ち分対策は必須ですが、子供のためを想って持ち分なしへ移行してもその後、子供が承継しないことも少なくないため子供からの承継の確約がない限り行動に移すことは得策ではありません。

 

家族信託は、信託契約を締結することによって財産ごとに「権利」と「名義」を分離し受託者に名義が移転させることができます。委託者の判断能力があるうちに自らの財産管理の希望を託しておくことで、本人の意思に沿って個々の財産を円滑に管理することが可能です。 また受益者である親が亡くなられた場合の二次受益者を定めておくことで承継対策として用いることもできます。

 

人生100年時代の到来とともに認知症、病気などによる介護期間も長期化してきています。 横手氏曰く、これまでのようにお亡くなりになって初めて効力を発揮する「遺言書」だけではなく、任意後見制度、そして「家族信託」と合わせた対応をしておくことで相続トラブルの9割が解決できるというのは非常に説得力のある説明でした。