発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:相続対策の最新情報!~資産を動かせないリスクを避けるために~

2015年の税制改正から相続税の基礎控除額が改正前と比べ40%下がりました。 たとえば法定相続人が3人の場合、3200万円も基礎控除額が減少しています。基礎控除額が引き下げられたため課税対象者が大幅に増え、とくに大都市圏では「戸建てを持っていると相続税がかかる」とまで言われています。

 

たしかに相続と言えば、相続税や親族間での争族への対策が頭に浮かびます。しかし対策そのものができないもっと深刻な問題があると知り、今月の「キーマンに訊く」ではNHKのクローズアップ現代をはじめ多数のメディアにも出演され、多くの相談実績をもつ株式会社日本財託の家族信託コンサルタント、横手彰太氏にお話を伺ってきました。

 

今回のインタビューで大きな驚きだったのが、横手氏はこれまで想像していた相続対策とはまったく違う視点から話をされていたことです。亡くなることを前提として対策するのではなく、その前に起こりうる認知症リスクを前提として対策することで相続におけるトラブルの9割は解決できるというものでした。

 

認知症数の推移について調べてみると、厚生労働省が作成した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の概要」には、高齢者の約4人に1人が認知症またはその予備群となっています。 認知症の人は 2012年の462万人(約7人に1人)から2025年には 約700万人(約5人に1人)に増加すると推計しており、長寿化とともに誰もが認知症になるリスクを抱えることになります。

 

しかしなぜ相続に認知症対策が必要なのでしょうか。

それは、認知症になるとご本人の預貯金の引き出しができなくなり、不動産売買の契約など一切の法律行為もおこなうことができなくなるためです。 「ご本人でなければ引き出しができません。成年後見制度を利用して後見人を立ててください」認知症になった本人のために預貯金を引き出しに銀行へ行った家族が、そこで初めて気づくことも多いようです。

 

この成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類ありますが、認知症の診断後は「法定後見制度」しか利用することができません。後見人は家庭裁判所が選任しますが、最近ではある程度の預貯金があると、親族ではなく専門職の第三者が後見人として選任される傾向があります。

 

たしかに「成年後見関係事件の概況 平成29年度」(最高裁判所事務総局家庭局)によると、親族が成年後見人に選任されたのは全体のわずか26%ほどで、弁護士、司法書士などが約74%となり、親族の意向にかかわらず第三者が後見人となる可能性が高いことがわかります。 後見人は本人の財産を守ることを目的としていますから、親族が本人のためと思っても、第三者の後見人から承諾が得られなければ本人の資産を動かせないことに変わりがありません。認知症と診断されてから亡くなるまでの年数は3ー7年というデータもあるように、相続が発生する前から相続対策は極めて難しくなることを意味します。

 

そのため相続問題を解決する手段として「任意後見制度」「家族信託」の活用が効果的な対策となります。この2つは本人が元気なうちに自らの意志で保有する不動産や預貯金などの一部でも信頼できる親族に託し、管理・処分を任せることができますし、財産の管理や運用状況を本人が見届けられるというメリットがあります。

 

これまで相続と言えば遺言書が遺産相続のすべてを決めてしまうと考えていましたが、横手氏によると遺言書だけでは“片手落ち”だそうです。 これからの相続対策は、1階 任意後見制度、2階 家族信託、3階 遺言の3階建てにしておくことで相続トラブルの9割が解決できるとのことでした。

 

子50歳、親80歳の世帯からの相談がとても多いそうです。 私自身、母親が預貯金口座や契約書類関連の整理をしていると数年前から聞いていましたが、認知症になってしまうと、母親のために自由にお金を使うことができないと知り、近いうちに話し合うきっかけとなったインタビューでした。