発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:親族内承継の現実 

ここ数年、M&A事業を取り扱う会社が次々と上場し好業績を上げています。 ご存知のとおり、日本の人口ボリュームの1割を占める団塊世代の経営者が引退を迎え、後継者不足による親族外への売却が増えていることが窺えます。 医療法人の場合、開設者は医師が基本条件となるため親族外承継のハードルは高くなります。 従って子供がドクターになれば承継者として期待するのが当然ですが、最近は必ずしも承継するとは限らない例が増えてきたように思います。

 

そこで今月の「キーマンに訊く」では、朝日税理士法人の古閑(こが)様に「事例から考える、病医院の事業承継」と題して最近の病医院の承継事例についてお聞きしてきました。私はこれまで院長先生が子供や親戚など親族内での承継を希望している旨の話はよく聞いていましたが、承継する子供側からの話を詳しく聞く機会がこれまでありませんでした。 それが今回のインタビューで、医師ではありませんが古閑様ご自身の経験を聞き、初めて子供側の立場からみた承継について聞くことができました。

 

古閑様の実家は会社経営をしています。 次男でありもともと会社の承継に関係ない状況だったようですが、ご兄弟のご不幸があり、次期承継者の立場となります。 ご自身も承継する心積りだったそうですが、結婚によるご家族の意向、都心から離れることによる子供の教育環境の問題、またその後のビジネス状況の変化もあり、最終的に承継しないことを決断するまで、古閑様の葛藤が現実の話として伝わってきました。

 

病医院の承継も同じではないでしょうか。子供が医学部を卒業し勤務医として経験を積む傍ら、結婚や子供の誕生など生活環境は大きく変化します。そして家族を持つと自分だけの意志で物事を運ぶことが難しくなることは十分考えられことです。

 

実際に子供が承継を考える際、病医院の来院患者数、借入金額、地域の人口動態など経営状況を確認したいでしょう。また、組織をまとめる力や診療以外の業務に対応するなど開業医としての資質があるのか不安かもしれません。さらに付随して起こりうる嫁姑問題、子供の教育環境などプライベートのことも考えなければなりません。 懸念材料があると分かればわざわざ自分の家族を巻き込んでまで承継する必要があるか、それよりも別の場所に開業した方が種々の煩わしさに巻き込まれないのではないか、勤務医であれば興味のある専門医療を続けられるなど、承継する以外の選択肢はいくつもあります。

 

一方でこれまでお会いした院長先生のお話を聞くと、「継いでくれるのではないか」と期待しているものの、医師となった子供にご自身の意向を明確に伝えている先生は多くないと感じていました。 さまざまな事を想定するほど子供と話をするタイミングが難しいことは理解できますが、ズルズルと先延ばししている間に子供の環境はめまぐるしく変わり、承継について話し合う機会を逸します。

 

したがってできるだけ早いうちに子供と膝を突き合わせて院長の考えを真剣に伝えることは極めて重要なことと考えます。これから医学部を卒業する子供がいる院長先生は、医学部を卒業し社会人となる前後は良い機会ではないでしょうか。 子供はまだ判断できないかもしれませんが、院長の意向を真剣に伝えれば子供も真剣に考え、早くから子供が承継について真摯に向き合うきっかけとなり得ます。 また承継に迷っているかもしれません。 その場合は、子供が何を考え、何を望んでいるのか,それに対して院長先生がどこまで対応できるのか、妥協点を探ることができます。

 

次世代への承継は具体的な準備を始めてからでも何年もの歳月が必要となることが多いです。一方で年齢が経つほど院長先生の気力の衰えや体調変化など、若いうちに気づかなかった不安材料も増えてきます。 早いうちに子供が承継するかしないか分かれば、院長ご自身と奥様、懸命に働いてくれるスタッフ、そして地域の患者のためにも自院の将来についてどうすれば最適なのか考える時間が取れます。 承継は経営者として最後にやり遂げるべき重大な責務といえます。