発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:自院の経営戦略を練る時間を確保する

今月の「キーマンに訊く」は「病院存続のために必要な経営戦略」と題して国際医療福祉大学大学院、医療マネジメント学科教授である羽田明浩先生にお話を伺ってきました。 日本の医療・福祉制度の仕組みや職業倫理など、基本的な知識はもとより会計学やマーケティングなど経営に必要な学問を4年間で多角的に学んでいく場となっています。現在、医療マネジメント科の受講生は、病院の副院長先生や看護師長クラスの方が多いとの事でした。 病院経営が複雑化する中、学問として経営戦略を習得する必要性が増してきている証と言えます。 興味ある方は国際医療福祉大学のウェブサイト(https://akasaka.iuhw.ac.jp/shm/index.html)をご覧になってみてはいかがでしょうか。

ところで戦略とはどのような意味を成すのでしょうか? 戦略とは元来は軍事用語として使われてきました。著名な戦略家や経営コンサルタントが独自の言葉で様々な定義をしていますが、ベースとなっているのは「目的を効果的に達成するための長期的、全体的な展望に立った計画、準備、運用の方法」です。

病院でいえば、長期的かつ俯瞰的な視点にたって自院が存続するために、診療圏における5年後、10年後の人口動態、地域住民が求める医療調査とそれに合致した医療提供するための施設基準や人員配置基準の変更の検討、競合病院への対応、連携できる病院や診療所との関係構築、厚労省など行政の情報収集から自院に与える影響を調査する、等々が「戦略」を練るという意味になると考えます。

また「戦術」という同じく軍事用語があります。 これは戦略の下位概念で「戦略を実現するための短期的、具体的方法」と定義されます。 たとえば、10年後も自院を存続させたいが診療圏での人口が20%減少するとの予測がある場合、人口増加地域に転院する、診療圏でМ&Aを行う、診療科を絞って特化するなど戦略を立案し、その中から、決断した戦略を基に具体的に実行へと移すことが戦術となります。

人口減少が分かっていながら患者減少が顕著となってから対処する、競合医療機関が進出し自院への影響が目に見えるようになってから慌てて対応するなど、いわゆる「戦略なき戦術」ではその場しのぎの対策となり、効果的な解決方法を見出すことは難しくなります。 つまり戦略を練ることは極めて重要な事なのです。

今後は診療所においても「どうすれば自院の繁栄を継続できるのか」戦略を練っておく必要性が高まります。 病床数の削減により病院勤務医数は今ほど必要ないかもしれません。 すると開業を考える医師数は増加する可能性は高く、既存の診療所にとっては競合医院が増えると自院の来院患者数に影響を及ぼすことは容易に想像できます。実際、近隣に競合医院が開業し患者数が減少したという話はあちこちで耳にするようになりました。

また、スタッフの人事戦略の必要性も高まっています。採用のための広告費用や人材派遣会社への支払いは高騰していますが、昨今の人手不足で看護師だけでなく受付事務の採用も難しくなってきました。新たな採用は困難な状況の中、人材不足による診療への影響も考慮しておく必要があります。これまでのように退職すればまた雇えばよいという考えから、長期的な視点を持って人材採用や育成に焦点を向けるのは1つの戦略となります。 このように戦略とは、将来に起こりうるトラブルや困難な状況に置かれる前に効果的な手を打つための考え方です。

紀元前500年前の兵法書である孫子の教えの中で「戦わずして勝つ」という言葉があります。 百戦百勝でも味方にも相手にも被害がでるためこれが最善とは言わず、戦わずして勝つのが最善だという事です。 競合との患者奪い合いなどに巻き込まれないように事前対策を打つことが、戦わずして勝つ戦略です。

戦略を練るうえで重要な点は、まとまった時間を確保して深い思索の場をつくることです。 そのためには日々の業務から離れ、静かな場所で考え抜くことが効果的です。ぜひ休日など比較的時間が取れる時に、自院の繁栄と成功を続けるための戦略を練ってみてはいかがでしょうか。