今月の視点:スタッフが辞めない病医院経営とは? 組織作りで意識するポイント
今から12年前の2009年に公表された日医総研のワーキングペーパー「開業動機と開業医の実情に関するアンケート調査」によると、開業医の管理面での業務で負担になっている項目として「スタッフの採用」が第1位、そして「スタッフの教育/育成、処遇/評価」がいずれも上位を占めており、組織運営の難しさが浮き彫りとなっています。 そして現在でもスタッフの一斉退職や退職した職員によるトラブルを耳にすることが多いことから、スタッフ定着が悩みの種であることは今でも変わらないのでしょう。
しかし労働人口減少による人手不足が今後も解消されることがないいま、新しいスタッフを採用するために人材紹介会社や広告会社へ支払う費用はさらに上昇することが予想され、スタッフの入れ替わりが多い病医院では、何も対策をしなければ自院の経費に占める採用コストは増加を続け、利益が圧迫される大きな要因となることは間違いありません。
また新しいスタッフを採用できたとしても、業務に慣れるまでの時間コストや周りのスタッフの負担も考慮する必要があります。 さらに採用してもすぐに辞めてしまうリスクも抱えることとなり、病医院側の負担は増すばかりです。
そこで今月のキーマンに訊くは、「スタッフが辞めない病医院経営とは?組織づくりにおいて意識すべきポイント」と題しまして、組織運営のコンサルタントとして活躍されている株式会社メディリリーフの荒井ゆき代表にお話を伺えましたので、その内容でとくに重要な点についてまとめてみました。
そもそも組織づくりとは何か?
病院とクリニックの組織形態とスタッフの役割に違いはありますが、指示待ちスタッフだけでは組織運営は機能しません。 スタッフが自律的に動けること、そのために自院の方向性を示し次の8つに分類して定義することが組織づくりの根底であることを説明していただきました。
組織作り 8つの定義
1.目的の提示 :ビジョン、組織の使命
2.目標の提示 :組織の目標、役割の目標
3.戦略・戦術の提示 :目標を達成する道筋、課題と解決策
4.構成と指示 :担当と役割決め
5.業務方法の提示 :業務フローとルール
6.期待能力の提示 :必要なスキル
7.育成指導 :業務指導、キャリアプラン
8.実績の評価 :業務評価
この8つを1つずつ定義しスタッフに示し共有化することで全員が目標に向かい成果を出す理想の組織をつくることができるとしています。ただし「人としての信頼関係」と「職場環境の整備」2つの土台ができていることが条件となります。
そして組織作りをするにあたり次の3つはとくに意識しておくべき点であると感じました。
・人をめぐるトラブルの多くは「人」の問題ではなく「組織」の問題である
・スタッフの意識を「人」に向けず「業務」に向ける工夫をする
・経営者は「多芸」であれ
組織とは「人」の集まりであり、感情に揺り動かされ、その感情によって思わぬ方向に進んでしまう局面があります。スタッフ一人ひとりの性格、人格だけにフォーカスするのではなく、業務成果に目を向けることがポイントです。 そして組織を動かす経営者は、医師としての顔だけでなく、経営者、相談者など様々な顔を出すことで組織のまとまりが生まれます。 そのうえでビジョン、目標、役割を明確に設定し、自院の目指す道筋を明確にすることでスタッフ全員が一丸となり患者から喜ばれる素晴らしい組織へと成長すると感じたインタビューでした。