発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点:「悲観的に準備し、楽観的に対処する」を実践する

「今月のキーマンに訊く」は、「中小規模病院に欠かせなくなった事務長の役割とは?」と題して福岡市内にある医療法人寺沢病院(病床数86)の薗田(そのだ)事務局長に、経営情報の収集と活用法、組織運営、経営者サイドとの関係性の取り方などお聞きしました。(8月号前編、9月号後編の2回) 病院経営を取り巻く環境は決して良くありませんが、中小規模病院でも然るべき手を打てば十分に経営が成り立つと再認識しました。

 

このインタビューの事前打ち合わせで、薗田事務局長の発言から「悲観的に準備し、楽観的に対処する」という言葉が脳裏に浮かびました。この言葉は日本の危機管理の第一人者であり、初代内閣安全保障室長であった佐々淳行(さっさあつゆき)氏が述べたものです。 佐々氏は 警察官僚としてキャリアをスタート、東大安田講堂事件、あさま山荘事件などの警備実施を指揮し、ソビエト連邦のスパイ取り締まりや亡命事件なども多く手掛け、その後、防衛施設庁長官、初代内閣安全保障室長を歴任された方です。著書も「危機管理のノウハウpart1~3」(PHP文庫)をはじめとして危機管理に関連する多数出版しています。残念ながらご本人は2018年に逝去されていますが、「危機管理」についての経験をユーチューブで観ることができます。

 

動画を視聴してみると「最悪の事態はペシミストに想定させ、対応策はオプティミストが対処する組み合わせの体制をつくる」「危機管理は想像力である」など気づきを与えてくれることをいくつも述べておられます。 そして警備体制の管理として確立していったノウハウが、その後財界人からも評価を受け、しだいに企業経営に活用されていったことにも言及しています。

 

今年のコロナ禍で多くの病医院で発熱患者の受け入れ対応に苦慮し、同時に外来や入院の動きが止まり、診療報酬が大きく減少するというこれまで経験したことがない危機的状況におかれたことは、まさに自院の危機管理体制が問われる事態と言えるでしょう。

 

事前打ち合わせで薗田事務局長に新型コロナの影響についてお伺いした際、発熱患者の対応策として隔離室の確保や、また診療報酬においては、7月から患者は徐々に戻ってきつつも4-6月は入院、外来ともに小さくない影響を受けているとのことでした。

 

そして「外来は恐らくコロナ前と比較して100%は戻らないことを想定している」と述べていました。つまり減収が続くと予測しているのですが、「戻らないことを前提として方策をたてていく」とも述べています。「悲観的に準備する」ことで、危機的状況が再来しても対処できる体制を今のうちに確立し実行に移しておくことを考えていたのです。それは「悲観的に準備し、楽観的に対処する」ことを実践されている証左です。

 

現時点ですでにコロナ第2波が来ていると言われていますが、非常事態宣言時から考えれば現時点では患者が戻ってきている段階です。 ただし今後また同じか、さらにはもっと過酷な環境におかれる可能性は否定できません。 しかしそんな悲観的な状況を予め想定し準備しておくことは、頭で理解できても実際には目をそむけたくなるものです。 それでも、現実を直視しさまざまな角度から最悪の状況まで想定しておくことで、覚悟も決まり返って精神的な余裕を生み、それが結果的に良い方向へつながるのではないでしょうか。