発行元:株式会社医療経営
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今月のトピックス
サバイバル時代に突入する医療業界に勝つ

池田 宣康

今月の視点​:病医院繁栄のキーワードは、患者のよろず相談 

ここ数年、士業と言われる税理士や弁護士の業界では、定型的な業務をこなしているだけでは報酬額が減少していく一方だと言われています。事務作業のIT化が進み、今後はAIによる定型業務の自動化に取って替わることも一因ですが、なにより需要と供給のバランスが崩れてしまったことが大きな要因です。

報酬額はすべて需要と供給の関係で決まります。 必要とされる需要に対して供給過多であれば競争原理が働き報酬額は下がりますし、供給不足であれば報酬額は高騰していきます。

​たとえば弁護士業界における需給バランスを調べてみると、需要である民事・刑事事件など新受事件総数は、1985年の5,103,957件から2016年には3,575,877件と3割減少しています。一方、供給側である弁護士数は日本弁護士連合会のデータによると、1982年の登録数は11,888人、2017年の登録数は38,980人と3倍以上に増加しています。 事件数と弁護士数の関係だけでいえば、弁護士の仕事は、競争に晒されていることは一目瞭然です。

そのようななか、クライアントの95%が病医院であり医療機関専門の弁護士として活動されている、山田隆史法律事務所の山田隆史先生に「病医院をクライアントに業務を行う弁護士の専門技術と役割」と題してお話を伺ってきました。

弁護士の仕事とは、刑事事件、民事事件の裁判で被告の弁護人となることや、法人倒産時の管財人になる、医療業界でいえば、医療訴訟が起きてはじめて発生する仕事との認識でしたが、山田先生は、病医院と顧問契約を結び、訴訟を未然に防ぐための契約書類関係の整備、患者からのクレーム対応、未払い医療費の回収アドバイザリー、職員の労務問題の解決、個別指導への対応、自主返還交渉、さらに院長先生の相続対策まで多岐にわたる業務を行い、病医院側からの依頼のみ専門とする弁護士として活躍されています。

競合が増えるなか、医療訴訟を専門に手掛ける弁護士というだけで高い付加価値があると考えていましたが、病医院におけるトラブル防止や潜在化しているリスクを回避することから院長先生のプライベートの悩み事まで、普段からどんな相談でも受けるよろず相談としての立場となっていることは、付加価値を生む仕事であり非常に頼りになる存在です。

翻って開業している先生の身に置いてみるといかがでしょうか。 最近では内科標榜でもさらに細分化され、糖尿病内科や膠原病内科などの専門クリニックが増えてきています。 専門特化することで自院の特色をアピールすることができますが、来院患者から一見病気とは関わりのないよろず相談をも受けることができれば、患者からさらに良い評判を生むことは間違いありません。病医院間での競争が激しくなるほど、専門特化+よろず相談として患者と接していくことが自院の繁栄が続く1つの方策のように思えます。

ちなみに医療需給について、厚労省が発表している平成28年度国民医療費の概況によれば、一人当たりの国民医療費は65歳未満が18万3,900円、65歳以上は72万7,300円と、医療費支出の約8割が65歳以上です。 その65歳以上の人口は、2017年に3500万人を超え、2040年まで増加するとの予測があり需要はまだ拡大します。 一方、供給側である医師数はどうでしょう。1982年に167,952人であった医師数が、2016年には319,480人まで倍増しています。そして医師数も今後増加することが見込まれています。 つまり医療業界の場合は需要も増加していますが、供給側も増加していることが分かります。

現時点では医師不足についてメディアでもよく取り上げられていますが、今後の医師数の増加、病床削減、医師偏在の是正、IT化の推進などによって、遠くない将来に需給バランスが整うことも考えらます。

数年前、ある病院の理事長との会話で、「これからは、病気や入院のためだけに来院してもらうのではなく、病気でなくても日常から地域住民が集う場所にしていきたい。これからの病院経営はそのような新しい発想が必要だ」と言っていたことを想い出します。地域のコミュニケーションの場として、そして病院という場を通してのよろず相談場所を夢見ているように感じました。